2021年4月13日
事業や会社が生み出す価値を担保に
昨年、コロナ禍で苦境に陥る航空業界で、米ユナイテッド航空が、マイレージ事業全体を包括的に担保とし巨額の長期融資を得る、というニュースが大きく報道されていました。このような事業や会社が生み出す価値そのものを担保に資金調達する仕組みが、日本にも登場するかもしれません。
昨年8月に金融庁が発表した『金融行政方針』に「金融機関が借り手を全面的に支えられる包括担保法制等を含む融資・再生実務の検討」が盛り込まれました。ここでの金融庁の問題意識は、「現状は、有形資産に乏しい事業者は将来性があっても依然として経営者保証の負担を負わざるを得ない場合があることや、従来の個別資産ベースの担保法制では債権者の最終的な関心が事業の継続価値よりも個別資産の清算価値に向きがちであるといった課題がある」という文言に集約されています。
要するに、「不動産担保・個人保証に依存した融資から脱却せよ」、「事業性評価をし、金融仲介機能を発揮せよ」という近年の指導方針の延長線上にあるものですが、それを“担保法制”という法的な制度面の裏づけをもって、より動機づけていこうということです。包括的担保は、現状、日本にはない制度であるため、米国等諸外国の制度を参考にした議論がなされているようですが、ざっくりとしたイメージとしては、技術力やノウハウ、人材、顧客基盤などのような無形資産、今後の将来性などを含む事業全体の価値に対して包括的に担保を設定する、という考え方です。
改正議論の本命は動産・債権を目的とする担保法制の見直し
実際の法制化には、法務省管轄の法制審議会の議論に委ねられることになりますが、法務省が主導して2019年3月に設置された「動産・債権を中心とした担保法制に関する研究会」において、担保法制の見直しが議論されていたところ、金融庁もこの議論に相乗りし、包括的担保の法制化に向けた働きかけをしてきました。なお、同研究会での主な議論は包括担保法制ではなく、動産などの担保設定が判例上認められてきた「譲渡担保」という仕組み(非典型担保)に依存しているところを、不動産の抵当権のような、より安定した民法上の担保権(典型担保)として法改正していこうというものです。同研究会の議論は、2021年2月に正式に法務大臣の諮問にかかり、法制審議会での審議入りが正式に決まっていますが、金融庁が提案してきた包括的担保についても、どれだけ具体的に議論の俎上にのぼり、法改正に実際に反映されていくのかというところが、今後の注目ポイントです。
包括的担保の制度化には多くの課題が
話が前後しましたが、上記法務省主導の研究会とは別の、金融庁独自の「事業者を支える融資・再生実務のあり方に関する研究会」が、昨年末に『論点整理』を公表し、包括的担保の制度イメージを詳しく提示しました。論点の洗い出しがなされ、“事業成長担保権(仮称)”という新たな名称が提起されるなど、議論の進展を見せています。
しかしながら、包括的担保については、各方面から、さまざまな課題が指摘されているのも事実です。当然、既存の個別の有形資産を対象とした担保権との整合性などの議論もありますが、ビジネスモデルや知的財産権といった無形の資産への担保評価は、まさに事業性評価の力量が試されます。金融機関の現実の対応力や評価体制の整備が進むのか、また、中小企業においてもより高度な“情報開示”が求められることも想定され、法制化の実現性とあわせて、今後の各方面の議論の行方が注目されます。
(館高)
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