2023年6月5日
自動運転時代、人間の対応力の限界
今年の春、某市で行われていた自動運転バスの実証実験で、バスが坂道で加速し乗客1名がけがをした事故で、バスが自動で加速した際にブレーキ操作などを適切に行わなかったとして運転手が書類送検されたというニュースに接した。ついに日本でも、そういうことが現実に起きるようになったのかと時代の変化を感じるが、この分野でずっと先行する米国では、すでに死亡事故など重大事故を含め事故事例は多数報告されている。
そして、それら事故事例において、自動運転中に問題が発生しそうになった際に、急に自らが主体的に運転を引き継ぐことは難しいという現実が調査結果から示されている。自動運転は確かに便利だが、将来の自動運転普及後の世界では、それに依存して自らの運転経験の乏しい人が、問題発生時に即座に“手動で”対応できる可能性は、よりゼロに近いと言わざるを得ないのではないか。
与信管理も主体的な判断力が失われている
翻って与信管理の世界においても、近年は“便利なもの”への依存の弊害というのが目立ってきたようだ。少し以前の事例にはなるが、関西方面のとある上場会社が悪意のある不正取引に巻き込まれ、その結果生じた不適切な会計処理に対して過年度決算を訂正した。特別調査委員会の調査結果を経て発表した資料によれば、売掛金に保険を掛けるなどの運用を行っていた一方、信用調査の内容や与信限度設定、取引条件などについては曖昧であったことが原因として挙げられていた。
根本的な原因としては、業績低迷のなかにあって、その売上挽回が至上命題となっていたことが大きいようだが、「保険」という便利なものに依存した結果、警戒心が薄れていた部分も大きかったのではないだろうか。別の業界の架空循環取引事件においても、巻き込まれた商社の1社で、やはり背景に信用保険への依存があったようだ。こちらのケースでは、リスク情報が複数回もたらされていたにも関わらず、主体的な調査・確認をせず被害を拡大させたと言われている。当然ながら、不正取引による損失までカバーする保険はないだろう。
中小企業に対する資金繰り支援政策が恒常化し、倒産が低水準で推移してきたなか、営業先行型のトップが審査部を廃止、全取引先に保険をかけることでそれに代えるといったような極端な話も耳にするようになった。しかし、いざ大きな問題が発生したときに、改めて与信機能を復活させようとしても、一朝一夕には対応できるものではないのだ。
最近ではベテランから「“あの会社は最近どう?”と聞いても、営業担当者が状況を把握していない」とか、「若手が外部調査機関の評点やら倒産確率やらに頼りきりで、取引先のナマの情報に関心がない」などのボヤキも耳にする。会社として取引先の動向に無関心になるということの弊害は、与信リスクの問題のみならず、営業活動を含めた企業競争力低下につながる問題ではなかろうか。
保険依存、担保依存、評点・スコアリング依存の落とし穴
金融行政当局が金融機関に対して求める融資スタンスがずいぶん前から“事業性評価”に変わっても、担保や保証に依存してきた銀行が、目利き力を強化することに四苦八苦しているように、‟便利なもの”への依存からの脱却はそう簡単ではない。
保険依存や担保依存だけでなく、信用調査会社の評点、スコアリングなどの外部格付依存も同様だ。そんな「○○依存」に完全に陥った結果、いつのまにか大事な何かが失われているかもしれない。これら便利な手段のおかげで、全体としてのリスクは以前に比べかなり抑制できることだろう。しかし、何か大きな落とし穴があるように思えてならない。とんでもない与信事故の危機に直面したときに、とっさにリスクを制御ができるかどうか。自動運転事故の報道に接して、そんなことが頭に浮かんだ。
(QSYH)
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