会計監査の機能不全は解消されるか?TOPICS

2020年12月24日

相次ぐ会計不正と規制強化の歴史

コロナウイルスが猛威を奮う中、今年も世界レベルでの不正会計事件が目立ちました。米国上場中国企業の相次ぐ不祥事もそうですが、欧州を代表するフィンテック最大手ワイヤーカードの事件は大きな波紋を広げました。

 

独ワイヤーカードの事件では、19億ユーロもの資金の架空計上が判明、その不正を見過ごしてきた会計事務所アーンスト・アンド・ヤングにも厳しい批判が寄せられ、同社の破綻はドイツ版“エンロン事件”とも呼ばれています。それは、2001年のエネルギー世界最大手・米エンロン社の破綻事件と重なり、その粉飾の規模もさることながら、会計監査への信頼性が大きく揺らいだ点でも共通しているためです。

 

米国のエンロン事件では、会計監査を担当したアーサー・アンダーセンが信用失墜により解散へ追い込まれ、世界の大手会計事務所は5強から4強の「ビッグ4」時代へ移りました。その衝撃は大きく、翌02年の史上最大の倒産劇と言われた通信会社ワールドコム事件の影響と併せ、その後の内部統制強化の流れを決定付けたSOX法(*上場企業会計改革及び投資家保護法)制定のきっかけとなりました。

 

日本においても、かつてカネボウ粉飾事件が日本版“エンロン事件”と報じられましたが、こちらも公認会計士が逮捕され、担当した中央青山監査法人が、改称を経て消滅するに至っています。この事件も、米国にならい06年に成立したJSOX法(*金融商品取引法)の罰則強化に影響を与えました。世界も日本も、世間を騒がせる大企業の会計不祥事が起きるたびに、規制当局の監視の強化などが行われてきましたが、同様の事例が繰り返され、無くなることがありません。

 

英国では18年の巨大ゼネコン・カリリオン社の突然死により、担当した会計事務所KPMGが窮地に陥りました。いわゆる「ビッグ4」解体論が叫ばれるなど、欧州では大手会計事務所と企業の馴れ合いへの風当たりが日に日に強くなっていたところですが、今年のドイツの事件がその論調を更に強めたことは間違いありません。そして、不正会計事件が相次ぐ日本の監査のあり方にも、当然に影響を与えると思われます。

 

定性情報を重視した多面的な監査が今後の鍵

すでにEUにおいては同一会計事務所による監査期間を上限10年にする規制が導入され、それを受けて日本においても、金融庁が監査法人のローテーション制度の導入を検討してきました。結局、今年1月の議論において制度導入は見送られましたが、東芝事件などを経て、企業と監査法人の癒着に対する懸念の声の高まりもあり、直近の金融庁公認会計士・監査審査会の集計では、監査法人を変更する上場企業の数が過去最高水準となったようです。

 

振り返れば、長年の規制強化の歴史にも関わらず、粉飾決算事件の発生とそれに対する会計監査の機能不全は、どうにもなかなか解消されません。これは、財務情報という定量データを中心に不正を見抜くことの限界を示しているのかもしれません。実際、今後の監査の重点的なポイントは「非財務」要素に向かっていきそうです。世界各国ですでに導入が進むKAM(*監査の重要検討事項)の開示が、日本においても来年3月から義務付けられますが、この動きも非財務情報を加味した判断を促すことになると思われます。

 

監査の現場では、リモートワークを余儀なくされ、余計に監査精度を保つことへの困難さが増しているようですが、定性的な情報収集を含めた多面的な分析、企業の実態に迫る公正な監査が、今まさに求められています。

 

(a.s.k)

 

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