危ない兆候 経理部長の退職TOPICS

2024年8月6日

寝耳に水の倒産劇

経理担当者の退職―与信管理を担当する人なら一度は聞いたことがあるかもしれませんが、会社の幹部社員、特に台所事情を知り尽くしている経理担当者の退職は、企業倒産につながる兆候の典型としてよく挙げられるものです。

2023年の年の瀬、関西において業界の有力企業として知られていた金物メーカーS社が民事再生法を申請しましたが、S社はまさに経理担当者の退職をきっかけに粉飾決算が発覚した急転直下の倒産でした。業歴も長く名門と言われるような地場大手企業が、「まさか・・・」というような寝耳の水の倒産劇を引き起こすことがありますが、S社の倒産も多くの取引先にとって驚きをもって受け止められました。

筆者が取材したS社の仕入先の担当者によれば、事後に知ったこととして「S社の前経理部長が突然出社しなくなった後、後任の経理部長が確認したところ、帳簿上あるべき有価証券が確認できないなど不明瞭な点が多数浮き彫りになった」と言います。その後、倒産のひと月余り前には、労働組合が主導したS社工場でのストライキの発生など不穏な動きを経て、ついに年末のXデーを迎えるに至りました。

 

増加する粉飾事件、定性情報入手に一層の努力を

前出の担当者は、「S社は長年の取引先で、調査会社経由で入手した財務内容は自己資本比率も高く、与信面の警戒度は高くなかった。蓋を開ければ悪質な粉飾があったわけで、件の経理部長の退職についても、当社の営業担当者が日頃からS社の経理部門と接触することがないため察知は難しく、何か手を打てただろうか・・・」と悔やまれていました。

冒頭で取引先の倒産の事前兆候として挙げた「経理担当者の退職」ですが、タイムリーにその事実を掴むのは、必ずしも簡単なことではないということです。

ただ、近年粉飾決算発覚による企業倒産が目立っており、財務分析だけに頼った与信判断では足元をすくわれる危険性が高まっています。ヒトの動きを中心に定性的な動向を察知する一層の努力は欠かせないでしょう。

 

取引先のヒトの動きに注意

コロナ禍前の話ですが、粉飾決算事案として話題になった東京の理化学機器専門商社の事例では、倒産の1年以上前から役員や経理部長の退職が相次ぎました。この動きを察知した一部の取引先が撤退する一方で、表向きの好決算や資本背景を根拠に取引を継続した企業は多額の焦付きを発生させており、定性面に対する感度の差が明暗を分けました。この事例では、倒産直前に不穏な噂が流れていましたが、幹部の退職などヒトの動きが結果的には信用不安に気づく数少ない機会となっていました。

財務良好な高格付先といえども、一定額以上の大口与信先については定期的に経営状況の直接ヒアリングをルール化するなど、取引先の経理担当者を含む経営管理層に接点を持つような工夫や努力が必要なのかもしれません。

ヒトの動きが商業登記事項に現れるケースもあります。粉飾決算事例ではありませんが、画期的な製品開発でマスコミ等でも非常に注目されていたある技術ベンチャーが倒産しました。このケースでは、倒産の2年近く前に技術担当役員の「辞任」が登記されており、一部の取引先で警戒感が高まっていました。昔から、登記事項の定期的な確認は信用調査の基本動作と言われますが、今でもヒトの動きを察知する上で有効な手段であることに変わりありません。

皆様の取引先にも、粉飾決算に手を染めた「優良」企業が潜んでいるかもしれません。倒産増加傾向にある昨今、取引先のヒトの動きに対するセンサーをこれまで以上に働かせることが、与信管理の鍵の一つと言えそうです。

(三代目)

 

 トーショーは企業の“変化”を捉える定性情報をご提供

トーショーでは、与信管理に欠かせない「定性情報」を収集・提供しています。抜群の情報収集力と長年にわたって蓄積されたデータベースから、お客様の与信管理ニーズに応じた配信形式でご提案いたします。

> 企業信用情報のサービス紹介はこちら

> お問い合わせはこちら

 

 財務分析から定性的な情報まで、トーショーの企業信用調査で情報収集を

企業信用調査もトーショーにお任せください。お客様の指定事項をカバーするオーダーメイド調査により、数多くのお客様から高い評価をいただいています。

> 企業信用調査のサービス紹介はこちら

> 見積り依頼などお問い合わせはこちら