【与信管理における定量分析の基本】
 第10回:財務分析 基本編(その2)

2025年1月8日

 

決算書の見方や財務分析について記載された書籍はたくさんありますが、与信管理目線に特化して、必要な知識を丁寧に解説したものは多くありません。この【与信管理における定量分析の基本】シリーズでは、与信管理の初心者が、決算書の見方やそのために必要な最低限の会計知識を含め理解できるように、詳しく解説いたします。第10回は「財務分析 基本編(その2)」と題して、財務分析のなかでも効率性分析にフォーカスして説明します。

トーショーの公式YouTubeにて配信している【スキマ時間で!無料で!マスターできちゃう動画シリーズ『取引先の決算書 定量分析の知識』】ともリンクした内容になっておりますので、あわせてご覧いただきますと、より理解が深まります。是非ご視聴ください。

>>第31回:財務分析 基本編その4:効率性分析①
>>第32回:財務分析 基本編その5:効率性分析②

 

<目次>

■効率性分析とは?
■総資本回転率(総資産回転率)
■固定資産回転率/有形固定資産回転率
■売上債権回転期間/棚卸資産回転期間
■仕入債務回転期間
■キャッシュ・コンバージョン・サイクル

 

■効率性分析とは?

事業のために投下した資金とそれによって運用されている資産が、どれだけ効率的に収益に結びついているかを分析するものです。例えば、土地・建物・設備などの投下資本が10あるとして、年売上高が20だとすれば、投下した有形固定資産が2回転したという言い方をします。同じ投下資本で年売上高が30の会社があるとすれば3回転ですから、その会社は2回転の会社よりも投下資本の有効活用度が高いということになります。

これから取り上げる各種の回転率の分析では、主に「売上高 ÷ 投下資本」という式で回転数を求めますが、この場合の分子の「投下資本」をB/Sから読み取る場合、財務分析の専門書などでは前期末と当期末の平均値を採用するべきとされています。しかし、現実には複数期のB/Sの入手ができるとも限らず、仮に3期分の決算書を入手したとしても、入手したうちの最初の期は平均値をとれず複数期比較での整合性も取れないため、与信調査の実務上では、期末の数値を用いている こと がほとんどです。

また、回転率と言う場合には「何回転」という言い方をしますが、効率性分析は「何日」とか「何か月」というように“期間”で表すことも可能です。上記のような有形固定資産や総資産の回転効率では、それら資産が「1年間で何回転した」というのが普通ですが、売掛債権や在庫、支払債務などの回転効率を見る場合には、「何日間」というような回収期間で表したほうが、わかりやすいからです。

 

■総資本回転率(総資産回転率)

文字通り会社の総合力として、保有資産がいかに有効に活用されているかを見るものです。少し応用ですが、本業で活用されている資産(「経営資本」と言います)だけを分母として計算する考え方もあります。

 総資本回転率(回)= 年売上高 ÷ 資産合計 

 経営資本回転率(回)= 年売上高 ÷ 経営資本 
 ※経営資本の計算例 = 総資産 - 建設仮勘定 - 投資その他の資産 - 繰延資産 

 

■固定資産回転率/有形固定資産回転率

固定資産回転率は、分母を固定資産に、有形固定資産回転率は、分母を有形固定資産に限定して、回転率を計算します。固定資産に非効率な資産が含まれているのではないか?というような視点、つまり与信管理の目的では固定資産全てを分母にした固定資産回転率の計算が基本となります。

一方で、特にメーカー等では企業活動の中心的な役割を果たしているのは工場や設備などの有形固定資産です。したがって、それに限定して効率性を測ることも経営分析の分野では重視されています。その場合には、稼働している有形固定資産の効率性を見るのが目的ですから、建設仮勘定などは控除するのがよいでしょう。

 固定資産回転率(回)= 年売上高 ÷ 固定資産 

 有形固定資産回転率(回)= 年売上高  ÷(有形固定資産-建設仮勘定)

固定資産を含めて資産が大きくなる傾向にあるメーカーでは、総資本回転率や固定資産の回転率が低めになり、設備の小さい販売業では回転率が高くなります。異業種間での比較はあまり意味がありません。

 

▼【業種別 財務指標平均値】総資本回転率・固定資産回転率・有形固定資産回転率

全産業 建設業 製造業 情報通信業 運輸業,
郵便業
卸売業 小売業 不動産業,物品賃貸業 学術研究,専門・技術サービス業 宿泊業,飲食サービス業 生活関連サービス業,娯楽業 サービス業(他に分類されないもの)
総資本回転率 1.00回 1.09回 0.96回 1.03回 1.09回 1.70回 1.68回 0.28回 0.66回 0.96回 0.90回 1.19回
366.7日 336.0日 381.8日 354.3日 334.4日 215.2日 217.8日 1299.2日 553.7日 382.1日 405.6日 307.1日
固定資産回転率 2.18回 3.56回 2.28回 3.21回 1.91回 5.68回 3.93回 0.43回 1.37回 1.49回 1.48回 2.75回
167.3日 102.6日 159.9日 113.9日 190.9日 64.3日 92.8日 849.5日 267.3日 244.3日 246.2日 132.7日
有形固定資産回転率 3.05回 5.18回 3.29回 7.89回 2.46回 9.54回 5.73回 0.52回 4.54回 1.86回 2.05回 4.68回
119.8日 70.4日 110.9日 46.3日 148.1日 38.3日 63.7日 708.2日 80.5日 196.4日 178.0日 78.0日

※『中小企業実態基本調査令和5年確報(令和4年度決算実績)』のデータから計算
※ 分子の売上数値は法人企業計を利用(個人企業を除く)
※ 有形固定資産回転率の分母から建設仮勘定は控除していません

 

■売上債権回転期間/棚卸資産回転期間

売上債権や棚卸資産等の流動資産の効率性分析は、与信管理目的の財務分析では極めて重要です。複数期の比較で、売上債権や棚卸資産が長期化傾向というのは危険信号です。

売上債権に不良債権が内包している可能性や、架空売上、押し込み販売(後で買戻しを前提とした販売)等の不正取引によって無理やり売上を上げている可能性がある為です。通常、取引条件(回収サイト)というのはそうそう変わるものではありませんので、売上債権回転期間の長期化は粉飾決算の一つの兆候です。

在庫期間の長期化も不良在庫の内包の可能性がありますし、なんといっても期末在庫を過大に評価することで容易に利益を操作できるため、在庫の粉飾も粉飾決算の基本中の基本です。

売上債権の計算では、脚注の割引手形残高を加えるのを忘れないようにしましょう。電子記録債権も手形と同様に売上債権ですので、決算書に記載がある場合は加算してください。

棚卸資産回転率(回)の分子は悩ましいです。「月商の何か月分の在庫を抱えている」などと表現されるように、他の回転率と同様に分母を「売上高」とする場合も多いですが、棚卸資産の金額は仕入値で計上されていますから「売上原価」とするほうが金額との対応関係では正確です。

 売上債権回転期間(日)= 365 日 ÷ 売上債権回転率(回)
 ※売上債権回転率(回) = 年売上高 ÷ 売上債権
 ※売上債権 = 受取手形 + 割引手形・裏書手形残 + 売掛金 

 棚卸資産回転期間(日)= 365 日 ÷ 棚卸資産回転率(回)
 ※棚卸資産回転率(回) = 年売上高(or年売上原価) ÷ 棚卸資産 

 

■仕入債務回転期間

仕入債務回転率の計算式の分子には本来「仕入高」を用いるべきだと思いますが、仕入高は判明しないことが多く、実務上はニアリーイコールの「売上原価」を用いています。また、一部の統計などで「売上高」を分子としている例もあります。

 仕入債務回転期間(日)= 365日 ÷ 仕入債務回転率(回)
 ※ 仕入債務回転率(回)= 年売上原価 ÷ 仕入債務 
 ※ 仕入債務 = 支払手形 + 裏書手形残 + 買掛金 

 

■キャッシュ・コンバージョン・サイクル

略してCCCと表記します。日本語では「収支ズレ」と言う人もいます。売上債権回転期間、棚卸資産回転期間、仕入債務回転期間の合わせ技です。支払から回収までのタイムラグで、その期間は運転資金を手当てする必要があります。この場合の棚卸資産回転期間の計算は、売上原価基準で計算するほうがよいと思います。

 CCC(日)= 売上債権回転期間 + 棚卸資産回転期間 - 仕入債務回転期間 

 

▼【業種別 財務指標平均値】売上債権回転率・棚卸資産回転率・仕入債務回転率・CCC(収支ズレ)

全産業 建設業 製造業 情報通信業 運輸業,
郵便業
卸売業 小売業 不動産業,物品賃貸業 学術研究,専門・技術サービス業 宿泊業,飲食サービス業 生活関連サービス業,娯楽業 サービス業(他に分類されないもの)
売上債権回転率 7.86回 9.40回 5.91回 7.13回 8.29回 6.48回 12.21回 22.06回 6.50回 24.37回 14.86回 9.14回
46.4日 38.8日 61.8日 51.2日 44.0日 56.4日 29.9日 16.5日 56.2日 15.0日 24.6日 39.9日
棚卸資産回転率(売上原価基準) 8.42回 8.00回 6.02回 15.16回 82.69回 12.13回 8.15回 2.74回 17.62回 27.88回 41.42回 39.72回
43.3日 45.6日 60.7日 24.1日 4.4日 30.1日 44.8日 133.2日 20.7日 13.1日 8.8日 9.2日
仕入債務回転率 7.05回 7.36回 6.09回 6.88回 10.23回 6.50回 9.56回 6.74回 6.86回 8.17回 8.93回 10.76回
51.8日 49.6日 59.9日 53.0日 35.7日 56.2日 38.2日 54.1日 53.2日 44.7日 40.9日 33.9日
CCC(収支ズレ)
38.0日 34.8日 62.5日 22.3日 12.8日 30.3日 36.5日 95.6日 23.7日 -16.6日 -7.5日 15.2日

※『中小企業実態基本調査令和5年確報(令和4年度決算実績)』のデータから計算
※ 売上及び売上原価の数値は法人企業計を利用(個人企業を除く)
※ 棚卸資産回転率の分子は「売上原価」で算定

 

■YouTubeでも詳しく解説!

本ページの内容は、トーショーの公式YouTubeにて配信している【スキマ時間で!無料で!マスターできちゃう動画シリーズ『取引先の決算書 定量分析の知識』】ともリンクした内容になっております。下記リンクのとおり、第31回~第32回が本ページの内容に沿った内容となっております。復習としてもご活用いただけますので、是非ご視聴ください。

 

第31回:財務分析 基本編その4:効率性分析①のサムネイル

>>【スキマ時間で!無料で!マスターできちゃう動画シリーズ『取引先の決算書 定量分析の知識』】 第31回:財務分析 基本編その4:効率性分析①

 

第32回:財務分析 基本編その5:効率性分析②のサムネイル

>>【スキマ時間で!無料で!マスターできちゃう動画シリーズ『取引先の決算書 定量分析の知識』】 第32回:財務分析 基本編その5:効率性分析②

 

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