【与信管理における定量分析の基本】
 第5回:損益計算書(その1)

決算書の見方や財務分析について記載された書籍はたくさんありますが、与信管理目線に特化して、必要な知識を丁寧に解説したものは多くありません。この【与信管理における定量分析の基本】シリーズでは、与信管理の初心者が、決算書の見方やそのために必要な最低限の会計知識を含め理解できるように、詳しく解説いたします。第5回は損益計算書(その1)と題して、損益計算書の基本ルールや項目について説明します。

トーショーの公式YouTubeにて配信している【スキマ時間で!無料で!マスターできちゃう動画シリーズ『取引先の決算書 定量分析の知識』】ともリンクした内容になっておりますので、あわせてご覧いただきますと、より理解が深まります。是非ご視聴ください。

>>第13回:損益計算書の基本ルールなど①

>>第14回:損益計算書の基本ルールなど②

>>第15回:損益計算書の主な項目 その1:売上高~売上総利益

>>第16回:損益計算書の主な項目 その2:販管費~営業利益

>>第17回:損益計算書の主な項目 その3:営業外損益~経常利益

>>第18回:損益計算書の主な項目 その4:特別損益~当期純利益

 

<目次>

■損益計算書とは?(第1回の復習)
■損益計算書の基本ルールなど
└ 会計上の利益は論理的な利益
└ 費用収益対応の原則
└ 発生主義と実現主義
└ 実現主義の例外
└ 2021年4月から適用、収益認識に関する会計基準
■損益計算書(P/L)の項目と全体イメージ

 

■損益計算書とは?(第1回の復習)

損益計算書にも略称があり、英語のProfit andLoss Statementから、実務でもよく「P/L」と呼ばれています。B/Sがある一時点の財政状況を示していたのに対し、P/Lはある一定期間の経営成績を表すものです。横のひな型でも、上部に「〇年〇月〇日至〇年〇月〇日」というように期間で書かれていますね。こういうデータを「フロー」と言います。

『会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)』(2022年11月1日、一般社団法人日本経済団体連合会)

P/Lは、B/Sに比べるとシンプルです。一定期間の経営成績と言いましたが、要するに、どれだけ売れて、どれだけ儲かったかを示しています。そして、どんな経営活動によってそれぞれ儲け(又は、損)が出たのかがわかるように、5段階で利益が示されています。ちなみに、海外のP/Lには経常利益はなかったりしますので、これはあくまでも日本式算書の話ですが、段階にわけて利益を表示するのは、基本どの国の会計基準でも同様です。

なお、P/Lで示される儲けはあくまでも“会計上の”利益であるということです。黒字であっても、その分キャッシュ(現金)が増えたということではありません。

 

▼本シリーズ第1回の内容はこちらからもご確認いただけます。
>>【与信管理における定量分析の基本】第1回:決算書とは?その全体像

 

■損益計算書の基本ルールなど

損益計算書を見ていくにあたり、基本的なルールを説明します。

会計上の利益は論理的な利益

与信管理目線でP/Lを見るときに、最も重要な前提としておさえておくべきことは、P/Lで示される儲けはあくまでも“会計上の”利益であるということです。会計の損益計算の目的は、適切な“期間”損益を計算することです。企業会計では、実際のキャッシュの動きよりも、一定期間の収益力を適切に表現することを重視していると言えます。そのために用いられている会計ルールが、発生主義会計と呼ばれるものです。

一方、与信審査においては、もちろん取引先の収益性にも関心がありますが、最大の目的は、倒産の危険性がないかどうか安全性を見ることです。支払能力の安全性、つまり資金繰りに最大の関心があるわけです。しかし、P/Lで示される損益は、会計上の損益であり、現金収支(キャッシュ・フロー)とは異なります。そのため、黒字であっても、その時点で必ずキャッシュが増えているとは言えません。理論と実際が一致しないことの例えを「勘定合って銭足らず」と言いますが、会計的に理論上は儲かっていても、実際には現金が不足して「黒字倒産」するということがあり得るわけです。

なぜ、そのようなことが起きるかというと、会計上の収益や費用の計上タイミングと、実際のキャッシュ・イン(お金が入る)とキャッシュ・アウト(お金が出る)のタイミングが異なるためです。BtoBの商売では、掛け売り・掛け買いの信用取引が前提ですので、売上が立つ(収益計上の)タイミングと、キャッシュが入るタイミングがズレることが普通です。このようなことを念頭においてP/Lを見るようにしましょう。

 

費用収益対応の原則

適切な“期間”損益を計算するための会計上の基本ルールです。当期の費用は、当期の収益に対応させるという原則です。例えば、当期分の売上と売上原価を対応させることが代表的な例です。当期中に100個を仕入れたけれども、このうち90個しか売れていなければ、残り10個分は当期の売上原価に含めません(ここでは当期首在庫が0個と仮定)。つまり、たとえ100個分の仕入れについてすでに現金で支払っていたとしても、90個分までしか当期の費用にはなりません(残りは棚卸資産として貸借対照表に表示されます)。減価償却費も、複数期の収益に貢献すると考えられる資産の取得費用を、利用可能期間(耐用年数)で振り分けます。これも、まさに費用収益対応の原則の考え方によります。それ以外にも、収益との厳密な対応関係はやや曖昧ですが、期間損益として処理するという考え方としては、連載コラムの第2回で取り上げた経過勘定も、まさにそのような考え方に基づいて計上するものです。

 

発生主義と実現主義

発生主義会計とは、収益と費用を、実際の現金の出入りとは関係なく、商品提供などの取引事実が発生したタイミングで計上する考え方です。実際の現金の出入りとは関係なく、というところがポイントです。費用は、原則、この発生主義に基づいて、認識時点で早めに計上します。

実現主義は、発生主義をさらに厳しくした考え方です。費用は、企業の財政にとっては不利な影響を及ぼす要素ですので、認識時点で早め早めに計上すべきですが、逆に収益は、本当に収益になるかどうかもわからないものを計上しては、信頼性のある経営成績を示すことはできません。そのため、収益に関しては、モノやサービスを顧客に引き渡し、代金(現金とは限らず、売掛金や手形の場合も含む)を受け取ることが確定した時点(実現した時点)で計上するというルールです。

日本では実現主義を前提として具体的にどのタイミングを実現時点とするかは、各社・各業界の業務実態に合わせて、いくつかの方法が慣習的に採用されてきました。出荷基準や、納品基準、検収基準が代表例です。

 

実現主義の例外

工事進行基準は、長期間の工期が必要な建設業やソフトウエア受託開発業などで認められてきた売上計上基準です。このような業種で厳密に実現主義を適用すると、たとえば5年後の完工まで、ほとんど売上が計上できないというようなことになりますので、発生主義的な売上計上も認められています。仮に今期、プロジェクト全体の50%が完成したとしたら、請負代金の半分を今期の売上として計上します。

割賦基準は、分割払い条件で回収期間が長い場合に、代金を受領するごとに売上を計上する方法です。これは、現金主義的な方法で、やはり実現主義とは異なる例外的な方法です。

 

2021年4月から適用、収益認識に関する会計基準

日本でも国際会計基準(IFRS)の影響を受け、2021年4月より上場企業および会社法上の大会社(資本金5億円以上、または負債200億円以上)には新しい収益認識基準が強制適用となっています。いわゆる会計基準の「2021年問題」と言われた大革命です。実際、上場会社などで、売上の数値が従前と大きく変わるなどの影響が出ました。なお、中小企業ではこのような会計基準の適用は任意となっています。

新しい収益認識基準では、「契約の識別」「履行義務の識別」「取引価格の算定」「取引価格の配分」「収益の認識」という5つのステップを踏んで売上計上することが求められてます。

上記の割賦取引の延払基準や、工事進行基準も廃止され、それらにおいても新しい収益認識基準の考え方に基づいて処理されることになりました。また、デパートや商社などが代表例ですが、「代理人」としての取引に該当する手数料商売では、売上高が総額(グロス)計上から純額(ネット)計上となることで、損益計算書の見かけ上、売上高が以前の表示より大きく減少するなどの影響が出ます。

 

■損益計算書(P/L)の項目と全体イメージ

損益計算書(P/L)は貸借対照表(B/S)に比べて、項目もシンプルです。基本的には足し算と引き算なので、理解は難しくありません。下記はP/Lの項目とその説明の一覧です。

売上高 商品・製品・サービスの提供など、本業で得た収益。企業の営業規模を見る一つの目安となる。
売上原価 商品仕入あるいは製品製造にかかった費用。売上に対応した費用のみが売上原価となるため、売上原価は「期首商品(or製品)棚卸高+当期商品仕入高(or当期製造原価)-期末商品(or製品)棚卸高」で算出される。
売上総利益 粗利、粗利益とも。商品・製品等の付加価値が高く、高価格で販売できていれば総利益率が高くなり、逆に価格競争に巻き込まれているような場合は低下する。その会社の技術力、商品力などが反映される。ここが赤字ということは原価割れで商売をしているということ。
販売費及び一般管理費 販売費:販売活動にかかる費用。一般管理費:会社運営にかかる費用。人件費、家賃、広告費、交通費、光熱費など様々。減価償却費は実際にはキャッシュアウトがない費用であることに留意。
営業利益 本業のもうけ。営業活動によってもたらされる利益。これが毎期赤字の会社は、継続性が危ぶまれる。
営業外収益 主なものは受取利息や受取配当金。その他は、受取家賃、雑収入など。
営業外費用 主なものは支払利息。その他は、有価証券売却損、雑損失など。
経常利益 企業の総合的な実力を示すものとして日本では伝統的に重視する人が多い。近年は低金利の影響もあり、営業外収益が営業外費用を上回る傾向が多く、営業利益よりも経常段階の利益が大きくなる逆転現象が見られる。
特別利益 所有する土地・建物や長期保有の有価証券売却など臨時的・例外的に発生した利益のこと。
特別損失 巨額の貸倒損失、災害損失など臨時的・例外的に発生した損失のこと。
税引前当期純利益 法人税等を払う前の利益。
法人税等 法人税、住民税、事業税の法人3税。
当期純利益 純利益、最終利益とも言う。マイナスの場合は純損失。純資産を増やす源泉

 

■YouTubeでも詳しく解説!

本ページの内容は、トーショーの公式YouTubeにて配信している【スキマ時間で!無料で!マスターできちゃう動画シリーズ『取引先の決算書 定量分析の知識』】ともリンクした内容になっております。下記リンクのとおり、第13回~第回が本ページの内容に沿った内容となっております。復習としてもご活用いただけますので、是非ご視聴ください。

 

第13回:損益計算書の基本ルールなど①サムネイル

>> 第13回:損益計算書の基本ルールなど①

 

第14回:損益計算書の基本ルールなど②サムネイル

>> 第14回:損益計算書の基本ルールなど②

 

第15回:損益計算書の主な項目 その1:売上高~売上総利益サムネイル

>> 第15回:損益計算書の主な項目 その1:売上高~売上総利益

 

第16回:損益計算書の主な項目 その2:販管費~営業利益サムネイル

>> 第16回:損益計算書の主な項目 その2:販管費~営業利益

 

第17回:損益計算書の主な項目 その3:営業外損益~経常利益サムネイル

>> 第17回:損益計算書の主な項目 その3:営業外損益~経常利益

 

第18回:損益計算書の主な項目 その4:特別損益~当期純利益サムネイル

>> 第18回:損益計算書の主な項目 その4:特別損益~当期純利益

 

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