【与信管理実務】与信管理体制構築の必要性・
与信限度額設定の方法とポイント

2025年1月6日

 

事業会社における与信管理は、どういった目的で行われ、なぜ必要なのでしょうか。本記事では、与信管理の社内体制を構築することがなぜ必要なのか、また実際に与信管理を行うにあたっての体制作りの考え方やポイント、与信限度申請や与信限度額設定の方法についても説明します。本記事の内容はトーショーの公式YouTubeにて配信している『与信管理実務スペシャル動画』シリーズともリンクした内容になっておりますので、併せてご覧いただきますと、より理解が深まります。是非ご視聴ください。

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<目次>

■継続取引における与信管理体制構築の必要性と目的
■与信管理の社内体制作りの考え方とポイント
└ 与信限度額設定の考え方とポイント
└ 取引限度管理規定の考え方とポイント
└ 与信管理体制の運用について注意点
■与信限度額申請手続き・限度額設定の方法
└ 与信限度額の設定手続き・流れ
└ 与信限度額設定の方法
■まとめ

 

■継続取引における与信管理体制構築の必要性と目的

企業間取引は、「信用取引」(「与信取引」ともいいます)で行われるケースがほとんどです。この信用取引では、基本的には事後に代金が支払われるため、与信期間が発生します。この期間に取引先が倒産してしまうと、代金が回収できなくなる、いわゆる貸倒れ(焦付き)のリスクが生じます。こうした不測の事態を予防し、経営にもたらす悪影響を回避するために与信管理を行う必要があるのです。与信管理は貸倒れの被害を回避することを目的とし、リスクを予測し管理することが求められます。そのため、社内において与信管理体制を確立することが必要となるのです。与信管理体制を構築することにより、貸倒れの被害発生の予防が可能になるとともに、取引先の信用調査と与信限度設定及び管理を通して、結果として優良な取引先を選別することにも繋がるというメリットもあります。

【与信管理の目的】
①貸倒れ(焦付き)の防止と貸倒れ損失の軽減
②自社にとっての優良な取引先を形成

具体的に、取引先が倒産してしまい代金が回収できなくなると、自社の経営にどのようなダメージがあるのでしょうか。仮に、利益率2%の取引で100万円が回収不能になった場合、その損失を取り返すのに必要な売上は5000万円ということになります。これほど多額な取引をしなければ、100万円の回収不能をカバーできないのです。このように、貸倒れ(焦付き)が発生すると、自社の業績悪化に繋がるという恐ろしいリスクがあります。入ってくるはずのお金が入ってこなくなってしまうため、自社の資金繰りへの悪影響は避けられません。資金調達のために、取引先に支払い猶予のお願いをしなければいけなくなる等、不安定な状態に陥ってしまうのです。ましてや、「あの会社は焦げ付いたらしい」という悪い噂が出回ると、対外信用力が悪化してしまいます。信用不安情報が出ると、通常できていた商売ができなくなる可能性もあります。最悪の場合、自社が倒産してしまうケース(連鎖倒産)もあるのです。

また、焦付きが発生すると、回収業務に時間と労力を費やすこととなり、社内モラルやモチベーションの低下、通常の営業活動が停滞といった悪影響も出てきます。

こういった経営リスクを回避するために、与信管理体制を構築し、管理していくことが必要になるのです。

 

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■与信管理の社内体制作りの考え方とポイント

与信管理は、売買取引の場合であれば、債権を全額回収するまでの一連のプロセスを見る必要があります。具体的には、取引の可否や与信限度額設定といった与信判断を行い、取引を実行し、取引実行後の管理業務といった一連の業務を行うことになります。取引実行後の管理業務では、与信限度の枠内に債権残高がおさまっているか、約束通り代金が支払われているか等を確認します。

与信管理の基本要件の一つは、与信限度額の設定とその管理です。そして、与信管理を実行していくにあたり、社内ルールとして『取引限度管理規定』(企業によっては『与信管理規定』『与信限度規定』など名称はさまざまです)を作ることから体制づくりがスタートします。

下記項目からは、基本的な与信管理体制の構築について考え方やポイントを説明していきます。ただし、与信管理は企業が社内で構築する総合的な内部施策であり、会社によって方法や考え方は異なります。下記項目以降を参考にしつつ、自社にあった与信管理体制を構築することが重要です。

 

与信限度額設定の考え方とポイント
【与信限度額設定とは】
取引相手先毎に与信供与を可能とする取引限度額を設定し、債権残高が設定した限度額を超えていないかどうかのチェックを行うこと。また、限度額そのものも定期的に見直すことによって、代金回収リスク(債権回収リスク)の回避・低減を図ること。

与信限度額の設定は、各取引先に対して債権の上限金額を設定するということですので、営業担当者は与信限度額をオーバーした取引をしてはいけないということになります。ここで注意すべきは、限度額内であれば債権は安全であるという確証を与えることではないという点です。与信管理において、この金額までなら安全で、これ以上は危険だという絶対的な基準はありません。限度額は各企業においていくつかの要件をもとに計算した目安の金額と捉えるのが良いでしょう。各企業によって判断は異なるため、限度額の設定はもちろんそれぞれの企業ごとで異なります。

与信限度額の設定において主に考慮される要素は、下記が挙げられます。

  • ・財務内容
  • ・取引の経緯
  • ・取扱商品
  • ・営業部の戦略
  • ・自社の財務体力

こういった諸々の要件を加味し、リスクとリターンのバランスも考慮しながら、総合的且つ慎重に判断したうえで、限度額を設定していきます。

与信限度額の設定は、営業担当を不測の事態から守るツールでもあると捉えることができます。不幸にして不良債権が発生した場合でも、社内で設定された限度額内で取引していた場合には、営業担当者は限度額内だったということを説明することができます。また、限度額をオーバーしそうになった時に、取引額が増えた理由を確認することで、取引先の変化に気付くきっかけにもなるのです。

 

取引限度管理規定の考え方とポイント

先述した与信限度額設定等のルールを社内で周知・徹底させるために、基本になる『取引限度管理規定』を定めます。定めるべき規定の内容は例として下記が挙げられます。

  • ・限度管理の対象債権
  • ・取引限度の定義
  • ・取引限度の有効期限
  • ・取引限度の承認者

対象債権は、売掛債権や前払金、寄託債権(自社の商品を違う会社に預ける)、委託加工債権(自社の原材料を他社で加工してもらう)等が該当します。
承認者の設定は、取引金額によって決裁者が異なり、多額の金額の場合には社長や役員が決裁するというケースが多いでしょう。
こうして自社に合ったかたちで『取引限度管理規定』の立案・申請を行い、審議を経て決裁され、正式に定められるという流れになります。

『取引限度管理規定』を厳格・適正に運用するためには、社内教育がとても重要になります。社長並びに役員、部長クラスが重要性を認識することはもちろん、社員に対しても、これを守って取引しないと不良債権の発生に繋がり経営に大きなダメージを与えることになってしまうということを十分に理解・浸透させることが肝要です。

 

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与信管理体制の運用について注意点

与信管理の遂行は、関係部門(営業部、審査部、経理部や総務部など)の協力と業務分担が鍵となります。基本的に、与信管理体制の運用は、営業部門と管理部門の共同作業です。

営業部門は取引先との窓口であり、接触する機会も多いためさまざまな動向が分かるはずです。営業部門は、そうした営業活動の中で得た取引先の情報を管理部門に伝達します。一方で、審査部門は調査会社と付き合いがあったり、各企業の審査担当者同士の情報交換により、企業の動向を把握していることがあります。そういった情報は審査部門から営業部門に伝え、部門間での情報伝達を相互に行うことが良い運用といえるでしょう。

与信管理は営業部門が強すぎても、審査部門が強すぎてもうまく機能しません。取引を行う際の判断は、常に片方が独断専行しないように、いい意味で牽制し合うことが重要です。営業部門は車で例えるとアクセルですので、営業部門が強いと危ない先でも多額の債権を持ってしまうケースがあります。これは、不良債権が生じるリスクをはらむことになります。一方で、管理部門が強いと、少しでもリスクがある場合には取引をやめた方がいいという判断になってしまいがちです。管理部門は車で例えるとブレーキです。新たな取引や取引拡大ができないといった商売のチャンスを逸しかねない事態にも繋がります。そのため、営業部門と管理部門のバランスがとても重要になってくるのです。

 

■与信限度額申請手続き・限度額設定の方法

与信限度額の設定手続きの流れや設定方法について、もう少し具体的に説明していきます。

 

与信限度額の設定手続き・流れ

与信限度額の申請から設定・管理のおおまかな流れは下記のとおりです。

  • 限度額を申請(営業部門)…取引の開始前に申請する
    各会社によって様式は異なりますが、決算書・商業登記・信用調査会社の調書といった判断材料となる資料を添付します。
  • 限度額の審査(審査部門)…与信の妥当性を判断
    審査部門が担当することが多く、経理部や総務部の担当者が行う会社もあります。信用取引ができるかどうか、財務分析がメインになります。
  • 限度額の承認(決裁者)…社内ルールに基づき決裁
    取引金額によって決裁者が異なる設定にしているケースが多いです。取引限度管理規定にしたがって判断されます。
  • 限度額の登録(審査部門)…限度登録後に取引可能となる
    決裁されれば社内的に認められて限度額が登録され、それをもってはじめて営業は取引ができるようになります。限度額申請を提出しただけでは取引できないので注意が必要です。
  • 限度額の管理(営業/審査部門)…取引限度と債権残高を照会
    経理部門では日々台帳をつけているので、月末の残高を関係部署に一覧にして配るケースが多いです。その一覧にて限度額オーバーがないかを確認します。
  • 1年毎に見直し(営業/審査部門)…更新手続きを行う
    限度額の見直しを毎月行うのは現実的ではないため、通常は1年毎に見直すのが実務的であり効率的です。現在の内容を継続していくのか、儲かっているようだから限度額を増やすといったことも検討していきます。

①~④がいわゆる与信限度額の設定手続きに該当し、⑤は日々の運用業務にあたります。この中では、③の決裁者のところが重要になってきます。決裁者を誰にするかは会社によって判断が分かれるところになります。審査部門が決裁権限を持つ場合、審査担当者は相手が倒産した時のことを考えて慎重な与信判断をする傾向があり、営業部門は商売が出来にくくなるという事が起こります。一方、営業部門が決裁権限を持つ場合には、審査担当者は権限や責任がないので、確定的な情報を持たない限り、どっちつかずの曖昧な意見を書きがちです。決裁者を誰にするかによって、こういったどちらかの傾向になりがちであるということは踏まえておくのがよいでしょう。いずれにしろ、取引金額が多額な場合の最終決裁者は社長にしているケースがほとんどです。

 

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与信限度額設定の方法

与信限度額は、月間取引予定金額(単価×月間販売予定数量)を算出し、代金回収条件も考慮して必要な金額を計算し申請します。回収条件によっては、債権回収までに数ヶ月間かかることもあるので、その分を考慮する必要があります。また、代金回収がずれ込むことも考えられるので、予定数量や予定金額を若干多めに申請することが多いです。企業によっては、信用格付を行っており、格付が良いランクの場合には、効率化の観点から一定の金額までは限度額の設定は必要ないという運用をしているところもあります。

与信限度額設定の考え方には下記のようなものがあります。

▼取引限度額設定の考え方

段階的増加法 当初は少額の限度を設定し、相手の内容が明らかになるにしたがい、段階的に増額する方法
月商基準法 相手企業の平均月商の1割程度を限度額とする方法
仕入債務基準法 相手企業の仕入れ債務残高の1割程度を限度額とする方法

こうした考え方も参考にしつつ、取引先の財務内容や業績に見合った妥当な額を検討します。多額な取引をした場合には、その取引先が傾いてしまった時に手を引けなくなってしまうケースがあります。そうしたリスクを負わないためにも、ほどほどのお付き合いをするということも一つの経営の考え方です。

 

■まとめ

与信管理は、貸倒れの防止と貸倒れ損失の軽減を目的とし、リスクを予測し管理することが求められます。そのため、社内において与信限度額の設定取引限度管理規定を取り決め、与信管理体制を確立することが必要となるのです。

与信限度額は、取引先の財務内容や取引経緯といった諸々の要件を加味し、総合的且つ慎重に判断したうえで設定していきます。そして、『取引限度管理規定』を定め、社内でルールを周知・徹底させ運用していくことが重要です。

与信管理は企業が社内で構築する総合的な内部施策であり、会社によって方法や考え方は異なります。自社にあった与信管理体制を構築することが肝要です。

 

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