取引先の経営状況を把握する企業信用調査とは

商品を先に提供し、後から代金を回収することが通常である企業間取引では、取引先の倒産などにより、自社の売掛債権が未回収となるリスクがあります。そのような貸倒れリスクを防止するために、適切な与信管理の実施が必要です。

与信管理の活動は、与信限度の管理や債権保全を含むトータルなリスクマネジメント活動です。その中で、取引先の経営状況を把握する企業信用調査は、与信管理における主要な活動の一つとして、与信取引をしている多くの企業において実施されています。

しかし、経験のない担当者にとっては、企業信用調査について、どのように取り組めばよいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。取引先の信用調査は、自社が主体的に取り組むことが大事ですが、企業信用調査の専門機関に依頼する方法も選択肢の一つです。本記事では、企業の信用調査の概要や必要性、調査手法について解説します。

 

【目次】

■企業の信用調査とは
└ 信用調査における調査事項の概要
└ 企業信用調査の必要性
└ 信用調査は与信管理の一環

■信用調査をしない場合の様々なリスクについて

■企業信用調査の方法
└ 直接調査
└ 公簿・資料調査
└ 側面調査
└ 調査依頼(調査機関の企業信用調査レポートの取得)

■信用調査のタイミング ~定性情報取得の重要性~

■トーショーは定性情報も提供します

 

企業の信用調査とは

与信管理における企業信用調査の基本的な目的は、取引先が与信対象として適切であるかどうか、つまり、継続的な支払能力に問題がないかを把握することです。また、近年では、コンプライアンス面等、資力以外の適正についても事前に確認をすることの必要性が高まっています。

 

信用調査における調査事項の概要

取引先の信用調査において収集すべき情報は、大きく「定量情報」と「定性情報」に分類できます。企業信用調査では、これらの情報をそれぞれ分析し、組み合わせて、総合的に与信先として問題ないかを判断をします。

 

定量情報

定量情報は、数値で表すことができる情報です。企業信用調査における定量情報は、端的に言えば、貸借対照表や損益計算書などの決算データです。また、それらの分析結果としての財務指標なども、定量的な情報です。決算データにより、企業の規模感や基本的な信用程度を推し量ることができます。業績推移等から収益性、財政状況から資本構成の安全性や資産活用の効率性等を見極めます。財務指標などは誰が計算しても同じ結果となるという意味で、客観性の高い分析ができるメリットがあります。

・貸借対照表
・損益計算書
・株主資本等変動計算書
・キャッシュフロー計算書
・付属明細表
・税務申告書

 

定性情報

定性情報は、上記の定量情報以外の全ての情報です。企業信用調査における典型的な定性情報には、会社概要情報、登記事項、事業内容、企業の沿革、資本背景、経営者の能力、保有する資産・技術・設備、取引先などです。これらの優劣を判断する定性分析は、ある程度の経験や勘を働かせる必要もあります。このような数値で表せない定性情報のなかに、企業の信用性を大きく左右する要素が含まれていることがあります。また、そもそも、取引先との関係性等から決算データを入手できない場合も多く、定量分析だけに頼った信用調査は非現実的です。

・会社概要情報
・登記事項(商業・不動産・債権譲渡・動産譲渡)
・事業内容(事業領域、取り扱い品等)
・企業の沿革、社風
・資本背景(株主、資本系列)
・経営者の能力(資質、経験、年齢、後継者の有無)
・保有資産
・技術・設備
・取引先(仕入先・販売先)
・取引金融機関
・信用不安情報の有無(業界内での風評等)

 

企業信用調査の必要性

企業間取引では、商品の納入後に代金を受け取る掛売りが中心となります。取引先を増やし、売上額を増加させることは企業が存続し成長するために欠かせないことですが、肝心の売掛金が回収できなければ、自社の業績や資金繰りへの悪影響が避けられません。貸倒れが発生すると、場合によっては、取引先への支払いや銀行への返済などに支障をきたし、自社も連鎖的に倒産してしまうような恐ろしい結果にもつながります。売掛金を確実に回収し、自社や従業員を守るために、取引先企業の支払能力が十分にあるのか、新規取引開始時に取引先の信用調査を実施することは必要不可欠のアクションと言えます。

また、企業信用調査は、新規取引開始時にのみ実施すればよいというものではなく、既存取引先についても、信用上の変化がないか定期的に確認し、情報をアップデートする必要があります。さらに、取引先に関する何らかの信用不安情報などを入手した際には、都度適時に取引先の現状を確認するために改めて信用調査を実施することが重要です。

 

信用調査は与信管理の一環

銀行における融資だけでなく、一般の事業会社においても商品・製品やサービスを先に提供し、掛売りで取引することは、信用取引または与信取引に該当します。与信取引には、売掛金の未回収リスク、貸倒れリスクが伴います。貸倒れリスクを防止するためには、適切な与信管理の実施が必要です。

与信管理の活動は、与信限度の管理や債権保全を含むトータルなリスクマネジメント活動ですが、その中でも基本となる活動は、取引先の信用状況の把握です。新規取引開始時に取引可否の判断をする際にも、既存取引先の与信限度額の見直しの際にも、様々な場面で、取引先の経営状況を把握する企業信用調査が欠かせません。

 

>>なぜ企業に与信管理は必要なのか?基本的な考え方や調査・分析方法について解説します。

 

信用調査をしない場合の様々なリスクについて

すでに上記で取り上げてきたように、信用調査を怠り、信用力のない取引先と取引を開始したり、信用悪化の兆候に気が付かず取引を拡大してしまったりした結果、その取引先が倒産してしまうと、大きな貸倒れ損失が発生します。そして、自社の業績と資金繰りに大きなダメージを与え、最悪の場合は連鎖倒産につながるケースすらあります。このような直接的な貸倒れリスク以外にも、信用調査を怠ることで以下のようなリスクが生じます。

まず、取引先の経営状況に無関心でいる結果、営業面においても芳しい成果を生まないでしょう。どんな会社でも経営上の課題があり、それを把握したうえで、取引先に効果的な提案をしていなければ、競争に負けてしまうリスクがあります。取引先の信用調査は、代金回収の確実性を担保するためだけに必要ということではありません。

また、明らかに事前に信用不安が取り沙汰されていた先に対して大きな貸倒れを発生させた場合や、小口でもしょっちゅう焦付きを発生させている場合には、「危機管理能力のない会社」とみなされ、金融機関や仕入先等の利害関係者からの評判を落とし、自社の対外信用力の低下を招きます。これも、信用調査をきちんと実施しておけば、防げる場合が多いのです。

さらに、近時においては、反社会的勢力などコンプライアンス面に問題のある企業との取引が発覚することによるレピュテーションリスクが増大しています。そうした面からも、事前の信用調査を怠ることのリスクは増大していると言えるでしょう。

 

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企業信用調査の方法

企業信用調査は、自社が主体的に取引先の情報収集に努め、実施することが望ましいです。また、専門の企業信用調査機関に調査を依頼し調査レポートを取得する方法もよく行われています。ここでは、一般的な信用調査の各手法について解説します。

 

直接調査

最も重要なのは、取引先から直接得られる情報です。これは、第三者のフィルターが入っていない、確実性が高く最も重視すべき情報です。
まず基本としては、「信用調査における調査事項の概要」の項目で紹介したような、取引先に関する定量情報(決算書)や、そのほかの定性情報についても直接取得、ヒアリングすることが望ましいです。しかし、取引上での力関係等の諸事情で、充分に必要な情報を取得できない場合も多いというのが実情でしょう。その場合は、商談調査と言ったりしますが、自社の営業担当者が訪問して、相手先担当者や経営者・幹部とのやりとりの中で相手先企業の経営状況に関する情報を把握します。また、直接訪問することで、事務所における従業員の雰囲気、設備の状況など、肌で感じる空気を伺い知ることができます。継続的に訪問を繰り返すことで、退職者の動きなど、変化を察知することも可能です。

また、与信取引の規模が大きい先や、資金支援をしている先、支払等ですでに問題を発生させている先等には、自社の与信管理担当者などによる立ち入り調査を実施し、経営者へのヒアリングや帳簿の閲覧を要求するなど、より踏み込んだ調査を実施することもあります。

・商談・訪問調査
・ヒアリング調査
・操業状況、設備、在庫等の実情
・社風、人の動き
・立ち入り調査

 

公簿・資料調査

商業登記簿(商業・法人登記事項証明書)や不動産登記簿(不動産登記事項証明書)など公簿調査は、信用調査における定性分析の基本中の基本です。
国の機関が作成する登記事項は極めて客観性の高い資料であり、誰でも安価に入手が可能です。特に商業登記は、新規取引の際、また定期的に変化がないか、適時取得するのは与信管理における基本動作と言えるでしょう。不動産登記では、その会社の本社や代表者の不動産を確認することで、担保設定状況等から債権者や債務負担の状況など、その会社の財政状況の一端を垣間見ることができ、信用調査において、非常に貴重な情報となります。近年は、債権譲渡や動産譲渡に関する登記も整備されており、これらに信用不安の兆候が表れることも多く、やはり重要性の高い資料です。

その他の資料調査としては、これらに比べると客観性の面では劣りますが、取引先が作成した会社経歴書やパンフレットの類、ホームページの記載事項なども参考にできます。

・商業登記
・不動産登記
・債権・動産譲渡登記
・会社経歴書、パンフレット、ホームページ

 

側面調査

取引先から直接得られる情報が最も確実性が高いと述べましたが、情報の提供を拒まれたり、提供された情報が不十分な場合もあります。また、粉飾決算をはじめ真実ではない情報が提供される可能性もあり、裏付けを取るために相手先企業以外の第三者からの情報収集も有効です。取引銀行や取引先、同業者などの言動から間接的な情報を収集するほか、信用調査機関に情報照会をするなどで、情報を補完し、側面からの傍証固めを行います。加えて、近年はインターネット空間での『書き込み』などにも目を配る重要性も高まっています。中には思わぬ有益な情報が転がっている可能性も否定できません。

・裏付調査
・取引先(仕入先・販売先)
・同業者内の評判
・取引金融機関
・企業信用調査機関
・インターネット上の書き込み(SNSなど)

 

調査依頼(調査機関の企業信用調査レポートの取得)

信用調査を全て自社で行おうとすると、非常に手間と時間、コストがかかります。そのため、外部の企業信用調査機関に調査を依頼して、その報告書を取得し、与信判断の参考にすることも広く行われています。また、企業信用調査機関に調査を依頼することで、調査のプロとしての専門性を活用できることや、第三者の客観的な評価が得られるという大きなメリットもあります。

一般的な企業信用調査レポート(信用調書、信用調査報告書という言い方も一般的です)は、専門の調査担当者が取引先を直接訪問し、経営幹部から直接ヒアリングをした内容(取材拒否の場合は側面調査による場合もあり)と、公簿調査によって取得された各種の登記事項も網羅しています。また、調査会社によっては指定事項によってオーダーメイドの調査に対応しているものもあります。そして、各社において、独自の評価方法を持っていますが、いずれも「定量分析」と「定性分析」を組み合わせて、その企業の信用程度を格付けした「評点」を参考として提供しており、与信判断の参考になります。ただ、評点という総合結果だけで判断せず、報告書の中身をきちんと精査することが重要です。調査レポートは、あくまでも参考資料として活用し、自社での主体的な情報収集活動と照らし合わせて、総合的に、かつ、主体的に与信判断していくことが重要です。

・会社基本情報
・所見(現状や見通し)
・評点(信用格付)
・登記事項(商業登記/不動産登記)
・経営者、企業沿革
・事業内容
・決算データ、業績推移、財務内容
・取引銀行
・取引先情報

 

>>トーショーの企業信用調査は、1966年の創業以来、数多くのお客様から常に高い評価をいただいてきました。

 

信用調査のタイミング ~定性情報取得の重要性~

信用調査を実施すべきタイミングには、いくつかあります。一つは、当然ですが新規取引開始時です。もう一つは、既存の取引先に対する定期的な調査で、取引先の信用格付や与信限度設定の見直しを実施する際に、年に1度などと適当な時期を定めて実施する場合が多いかと思います。また、特定の取引先について新たな商談が生じて与信枠の増額が必要となった場合や、新たな取引スキームが始まる際などに実施する必要もあるでしょう。

以上のような、新規取引開始時、定期的な見直しの時はもちろん重要ですが、最も重要なのは、取引先に信用上の変化が見られた場合に、改めて信用調査を実施するということです。つまり、取引先が焦付きを発生させたとか、社員の退職が増えたとか、何等かの信用不安のウワサを耳にしたとか、そういった「兆候」を発見した場合には、時機を逃さず、信用調査を実施することを心掛けて頂ければと思います。

いずれにせよ、兆候を察知しなければ、何事も始まりません。取引先の信用上の変化に関する兆候をとらえる方法という視点では、過去のある時点における決算データなどの定量情報はあまり役には立ちません。やはり、取引先の信用に関わる定性的な動きに着目して、変化を捉えられるようにアンテナを高くしておく必要があります。営業担当者の取引先への往訪のなかで、何等かの気づきを得られる可能性はありますが、自社だけで取引先の変化を常時監視することは困難です。日頃から外部との情報交流を通じて、定性情報の収集を可能にするような情報ネットワークを構築しておくことが欠かせないでしょう。

 

トーショーは定性情報も提供します

本記事では、企業信用調査の必要性や調査手法について解説しました。

弊社トーショーでは、特色あるオーダーメイドの信用調査サービスはもちろん、取引先企業の信用上の変化、「兆候」を捉えるための希少性の高い定性情報を提供しています。

信用調査についてのお問い合わせや定性情報の収集についてのご相談は、ぜひ、トーショーまでお寄せください。

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